飯島謙一講座:第3回

飯島謙一の講座

 

病原性 

ほとんどの E. coli は無害だが、いくつかの場合では疾患の原因となることがある。

人体には、血液中や尿路系に侵入した場合に病原体となる。内毒素を産生するため、大腸菌による敗血症は重篤なエンドトキシンショックを引き起こす。敗血症の原因(明らかになる場合)として最も多いのは尿路感染症であるが、大腸菌は尿路感染症の原因菌として最も多いものである。

E. coli の株は多数報告されており、一部では動物に害となりうる性質を持つものもある。大部分の健康な成人の持っている株では下痢を起こす程度で何の症状も示さな いものがほとんどであるが、幼児や病気などによって衰弱している者、あるいはある種の薬物を服用している者などでは、特殊な株が病気を引き起こすことがあ り、時として死亡に至ることもある。

E. coli の株の中でも特に強い病原性を示すものは病原性大腸菌とよばれる。食品衛生学分野では病原大腸菌ともよぶ。

 

病原性大腸菌 

  • 腸管病原性大腸菌(EPEC, enteropathogenic E. coli小腸に感染して下痢腹痛等急性胃腸炎をおこす。
  • 腸管侵入性大腸菌(EIEC, enteroinvasive E. coli大腸に感染して赤痢様の症状をおこす。
  • 毒素原性大腸菌(ETEC, enterotoxigenic E. coli)小腸に感染し下痢をおこす。増殖の際、毒素を産生する。
  • 腸管出血性大腸菌(EHEC, enterohemorrhagic E. coli)腹痛、下痢、血便をおこし、ベロ毒素産生により溶血性尿毒症症候群(HUS)、脳症をおこす。
    • O157(Escherichia coli O157:H7) などが知られている。
  • 腸管付着性大腸菌(EAEC, enteroadhesive E. coli
  • 腸管凝集性大腸菌(EAggEC, enteroaggrigative E. coli

学名

テオドール・エシェリヒ

学名は Escherichia coli で、属名は発見者のオーストリア人医学者テオドール・エシェリヒ Theodor Escherich にちなみ、これに屈折語尾を加えてラテン語化したもの。種形容語はラテン語で大腸を意味する「colon」の属格「coli」である。学名の正式な読みというものは存在しないが、語源を重視するとエシェリヒア・コリー、語源を無視して属名もラテン語読みするとエスケリキア・コリーとなる。英語ではエシェリキア・コーライと読む。

属名を省略してE. coli (イー・コライ、イー・コリー) と略す表記もある。ただし正式には、これは Escherichia 属が既出の場合に認められる略記である。最初からE. coli と略すのは、文脈から Escherichia 属のことを言っているのが明らかでも、不適切である。

 

利用
 

指標生物として 

腸内に生息する菌であることから、この菌の存在は糞便による水の汚染を示唆し、河川、、海水浴場などの環境水の汚れの程度の指標として用いられる。

ヒト一人が一日に排泄する糞便中に含まれる菌体数は、平均で1011から1013個である。ただしヒトの消化管において、大腸菌が全体の微生物に占める割合は極めて少なく、ヒト腸内常在細菌の0.01%以下にすぎない(残りの大部分は、Bacteroides 属やEubacterium 属などの偏性嫌気性菌である)

水の浄化や汚水処理技術の分野では、培養可能な E. coli の量は人間の糞便の混入の程度を示唆するものとして、水の汚染レベルの指標としてかなり早い時期から用いられてきた。研究に使われている E. coli それ自体は無害であり、E. coli がこれらの指標に用いられるのは、他の病原性のある菌(サルモネラなど)よりもこれらの糞便由来の大腸菌の方が遥かに多く含まれるとされるためである。

また、日本の水道法により上水道の浄水からは「検出されてはならない」とされている。

大腸菌群

 

大腸菌群とは細菌学用語ではなく衛生上の用語である。ラクトース発酵(乳糖分解し、酸とガスを発生)するグラム陰性、好気性・通性嫌気性で芽胞を形成しない桿菌の全てである。E. coliであってもこれに該当しないものが多く存在する。

その多くは汚水菌(クレブジエラ属菌、サイトロバクター属菌、エンテロバクター属菌)や土壌中の非常によく似た性質のバクテリア (よく知られたものとしてはAerobacter aerogenes) が大腸菌群として分類される。なお、病原性大腸菌はこの検査法での検出は非常に困難である。

また、水中に含まれる大腸菌群を数値化したものを大腸菌群数といい、水質汚濁の指標に用いられる。

 

日本の食品衛生法

食品衛生法では大腸菌群陰性とは加熱済み食品の加熱ができているか、加熱後の二次汚染がないかを確認するために食品の規格に規定されている。

また、食品衛生法の規格基準にある検査法(EC培地において44.5℃で増殖し、乳糖を分解してガスを産生するグラム染色陰性、無芽胞桿菌)で検出する菌を E. coli と記述しているが E. coli であってもこれにあてはまらない菌も多く食品衛生上の行政用語である。これは検査法では大腸菌群の培養温度が異なるだけの糞便性大腸菌群とほぼ同一の内容である。

 

※資料:ウィキペディア